ACT (キー配列)
ACT(アクト)は、日本語入力を行うために使用する、ローマ字入力用入力法の一つ。基本となる配列は Dvorak配列であり、省入力化規則はAZIKの考え方を用いている。
目次
成立の背景
標準的なけん盤配列を「少しの改定のみで最適化する」試みを続ける木村は、かつてQWERTY配列を最適化するためのAZIKを考案し実践していた。この過程で、AZIKのやり方をDvorak配列(Dvorak Simplified Keyboard)へも適用できることに気づいたことが、ACTの原点である。
Dvorak配列は、日本語入力用に作成されたSKY配列やM式と同様に、母音が片方の手(Dvorak配列では左手)に集中して割り当てられている。母音と子音を交互に使用することが多いローマ字入力を行う場合、打鍵するべきキーも左右の手に振り分けてあるほうが打ちやすいと考えられる。
ところが、Dvorak配列は日本語入力用に作成されたわけではないため、そのまま日本語入力用として使うには使いづらい。子音であり拗音でも使用する「Y」と、おなじく子音である「K」が左手にあり、これらに続けて同じ手の母音を打つのは困難である。これらの問題に対して、Aki:zは「Y」の代わりに代替拗音キーを使用する提案を公開し、増田は「K」の代わりに「C」キーを使用する提案を公開している。これらをふまえて、Dvorak配列の特性を生かした日本語入力法を作成することとなった。
「ACT」という名前の由来
QWERTY配列で「AZIK」と打鍵するには、ホームポジションに指を置いた状態から「左手小指中段→左手小指下段→右手中指上段→右手中指中段」を順に打鍵する。同じ操作をDvorak配列で行うと「A;CT」という文字列が得られることから、「ACT」と命名とした。
実装方法
ACTの基本となるDSK配列は、デバイスドライバなどで実装する。実装したDSK配列をACTにする為には、日本語入力システムが持つローマ字変換規則などを定義し直す事により実装する。詳しくは文末リンクを参照のこと。
ACTの「お約束」
ACTはローマ字入力を基礎としているが、拡張を行うための定義を確保するために、いくつかの規則がローマ字入力規則のJIS X 4063:2000に合致していない。これらの制限とACTの規則をまとめて列記すると、次の差異がある。
- 紀要文献では右手小指上段にあるキー「L」も用いることとされ、他の捨て仮名は小指外方にあるShiftキーを用いる設計であった。
 
中指・薬指・小指位置にある子音キーを押した場合の拗音化キーは子音キーと同じ段の人差し指に、
人差し指位置にある子音キーを押した場合の拗音化キーは子音キーと同じ段の薬指に当たる位置にある。左手人差し指で操作する「P」に限っては、右手中段にある薬指を拗音化キーとしている。これらの規則はローマ字綴りとして見ると奇異に写るが、「打ちやすい運指ほど覚えやすい」という経験に基づくアプローチである。
子音キーを押したあとの「yuu」キーは子音キーと同じ段の中指に当たる位置に、
子音キーを押したあとの「you」キーは子音キーと同じ段の小指に当たる位置に、それぞれ設定している。一部の外来語にのみ出現すると思われる綴りについては、末尾の「U」を「-」に置き換えているものもある。
子音キーに続けて拗音化キーを押したあとの「utu」キーは子音キーと同じ段の中指(右手中段中指がTなので)に当たる位置に、
子音キーに続けて拗音化キーを押したあとの「oku」キーは子音キーと同じ段の薬指(左手中段薬指がOなので)に当たる位置に、
子音キーに続けて拗音化キーを押したあとの「aku」キーは子音キーと同じ段の小指(左手中段小指がAなので)に当たる位置に、それぞれ設定している。
ユーザーによる選択の余地
打鍵数を削減するには撥音・母音拡張を導入することが望ましい。一方で、左手の上下動を減らすためには撥音・母音拡張の両方もしくは片方を使わないことが望ましい。これらは必ず使用しなければならないというわけではなく、どういう打鍵を望むかというユーザーの考え次第で適宜選択すればよい。文献では、ドヴォラック標準・子音キーKの代わりに子音キーCを用いる拡張ドヴォラック・拗音規則のみのACT1・ACT1に撥音と母音拡張を行ったACT2・ACT2に頻出拗音拡張を行ったACT3・省略打鍵を全て有効にしたACT4についての測定結果を示している。
入力規則
入力方式を定義するための詳細な規則については、公式サイトを参照されたい。ここでは、指の動きをイメージしやすくするために、ストローク表の体裁を公式サイト・公式文献とは若干異なるフォーマットにしている。
ACTの基本配列
- 枠内の1段目は1打鍵目、2段目は2打鍵目、3段目は3打鍵目を示す。
(1打鍵目と2打鍵目以降で割り当てが変わるものは、2打鍵目以降を括弧でくくった) 
| 小指 | 薬指 | 中指 | 人差し指 | 伸ばす | 伸ばす | 人差し指 | 中指 | 薬指 | 小指 | 小指伸ばす | |
| LTu (ai)  | 
、 (ou)  | 
。 (ei)  | 
P (uu)  | 
Y y  | 
F 
  | 
G (y)  | 
C (yuu)  | 
R (y)  | 
L (you)  | 
右手の2~3打目は同 段子音キーに続き打  | 
|
| a a  | 
o o  | 
e e  | 
u u  | 
i i  | 
D 
  | 
H (y)  | 
T (yuu)  | 
N (y)  | 
S (you)  | 
ー(長音) -  | 
右手の2~3打目は同 段子音キーに続き打  | 
| ann ann  | 
onn onn  | 
enn enn  | 
unn unn  | 
inn inn  | 
B 
  | 
M (y)  | 
W (yuu)  | 
V (y)  | 
Z (you)  | 
右手の2~3打目は同 段子音キーに続き打  | 
|
| 「P」の拗音化は、右手中段 (拗音化は薬指)を用いる。  | 
2打目の(y)は同段中指 ~小指の打鍵後に有効  | 
2打目の(y)は同段人 差し指の打鍵後に有効  | 
|||||||||
【打鍵例】「ちゃくしょく」は[T(子音T)][H(同段拗音化y)][S(同段aku)][S(子音S)][H(同段拗音化y)][N(同段oku)]と打鍵する。
ACTの省略打ち配列
灰色付きキー列を1打鍵目に打鍵した場合の文字けん盤を示す。枠内の1段目は注釈である。
枠内の2段目は上段色付きキー、3段目は中段色付きキー、4段目は下段色付きキーに続く打鍵で出る文字である。
(この省略打ちけん盤配列は、Web公開の最新版ではなく、紀要文献のp.134に基づくものである)
- 右手人差し指伸ばすを先押しシフトに用いる省略打ち
 
| 人差し指 | 伸ばす | 伸ばす | 人差し指 | 中指 | 薬指 | 小指 | 
| Pシフト 
  | 
Yシフト 
  | 
Fシフト ふり  | 
Gシフト ふる  | 
Cシフト 
  | 
Rシフト ふる  | 
Lシフト 
  | 
| Dシフト 
  | 
Hシフト 
  | 
Tシフト 
  | 
Nシフト ふぁん  | 
Sシフト 
  | 
||
| Bシフト 
  | 
Mシフト ふむ  | 
Wシフト 
  | 
Vシフト 
  | 
Zシフト 
  | 
【打鍵例】「ふるでしょう」は[FR(ふる)][DL(でしょう)](もしくは[FG(ふる)][DL(でしょう)])と打鍵する。
- 右手人差し指を先押しシフトに用いる省略打ち
 
| 人差し指 | 伸ばす | 伸ばす | 人差し指 | 中指 | 薬指 | 小指 | 
| Pシフト 
  | 
Yシフト 
  | 
Fシフト 
  | 
Gシフト 
  | 
Cシフト 
  | 
Rシフト 
  | 
Lシフト 
  | 
| Dシフト 
  | 
Hシフト 
  | 
Tシフト ごと  | 
Nシフト こく  | 
Sシフト がく  | 
||
| Bシフト 
  | 
Mシフト 
  | 
Wシフト 
  | 
Vシフト 
  | 
Zシフト 
  | 
【打鍵例】「ひとりごと」は[HR(ひとり)][GT(ごと)]と打鍵する。
- 右手中指を先押しシフトに用いる省略打ち
 
| 人差し指 | 伸ばす | 伸ばす | 人差し指 | 中指 | 薬指 | 小指 | 
| Pシフト 
  | 
Yシフト 
  | 
Fシフト 
  | 
Gシフト 
  | 
Cシフト 
  | 
Rシフト から  | 
Lシフト 
  | 
| Dシフト かた  | 
Hシフト 
  | 
Tシフト こと  | 
Nシフト こく  | 
Sシフト かく  | 
||
| Bシフト かんがえ  | 
Mシフト 
  | 
Wシフト 
  | 
Vシフト 
  | 
Zシフト 
  | 
【打鍵例】「かんがえても」は[CB(かんがえ)][TB(ても)]と打鍵する。
- 右手薬指を先押しシフトに用いる省略打ち
 
| 人差し指 | 伸ばす | 伸ばす | 人差し指 | 中指 | 薬指 | 小指 | 
| Pシフト 
  | 
Yシフト 
  | 
Fシフト れる  | 
Gシフト 
  | 
Cシフト 
  | 
Rシフト られ  | 
Lシフト 
  | 
| Dシフト 
  | 
Hシフト 
  | 
Tシフト 
  | 
Nシフト ろく  | 
Sシフト らく  | 
||
| Bシフト れば  | 
Mシフト 
  | 
Wシフト 
  | 
Vシフト 
  | 
Zシフト 
  | 
- 右手小指を先押しシフトに用いる省略打ち
 
| 人差し指 | 伸ばす | 伸ばす | 人差し指 | 中指 | 薬指 | 小指 | 
| Pシフト 
  | 
Yシフト 
  | 
Fシフト れる  | 
Gシフト 
  | 
Cシフト 
  | 
Rシフト られ  | 
Lシフト 
  | 
| Dシフト 
  | 
Hシフト 
  | 
Tシフト 
  | 
Nシフト ろく  | 
Sシフト らく  | 
||
| Bシフト れば  | 
Mシフト 
  | 
Wシフト 
  | 
Vシフト 
  | 
Zシフト 
  | 
【打鍵例】「じゅうじつした」は[ZC(じゅう)][ZT(じつ)][SC(した)]と打鍵する。
- 左手Pキーを先押しシフトに用いる省略打ち
 
| 人差し指 | 伸ばす | 伸ばす | 人差し指 | 中指 | 薬指 | 小指 | 
| Pシフト | 
Yシフト | 
Fシフト ぷり  | 
Gシフト ぷる  | 
Cシフト | 
Rシフト ぷろ  | 
Lシフト | 
| Dシフト | 
Hシフト | 
Tシフト | 
Nシフト | 
Sシフト | 
||
| Bシフト | 
Mシフト | 
Wシフト | 
Vシフト | 
Zシフト | 
- 左手Yキーを先押しシフトに用いる省略打ち
 
| 人差し指 | 伸ばす | 伸ばす | 人差し指 | 中指 | 薬指 | 小指 | 
| Pシフト | 
Yシフト | 
Fシフト | 
Gシフト | 
Cシフト | 
Rシフト | 
Lシフト | 
| Dシフト | 
Hシフト | 
Tシフト | 
Nシフト | 
Sシフト | 
||
| Bシフト ゆび  | 
Mシフト | 
Wシフト いわれ  | 
Vシフト | 
Zシフト | 
ソフトウェアまたは定義
- [http://h12u.com/hmo2/ 姫踊子草} - キー入力入れ替えソフト。シェアウェア。「姫踊子草かな配列」という独自配列用だが、汎用の入れ替えソフトとしても使える。
 - DvorakJ - レジストリを変更しない常駐型のソフト。Dvorak系以外にも親指シフトやNICOLAなどの配列定義があり、オリジナルの定義も作成できる。フリーソフト。
 
関連項目
- Dvorak配列
 - DvorakJP - 物理的な配列を変更せずに、日本語入力の負荷軽減を目指した配列。
 - JLOD配列
 - 蒼星 - Shiftキーを利用した機能強化が特徴。ACTやM式などを参考にして考案された配列。
 
外部リンク
- 拡張ローマ字入力『AZIK』/『ACT(考案者自身による解説サイト)
 - http://www.mikage.to/act/act.html ACT配列(Mx版)](ACT利用者による変更例(作成中)、拡張ルールを整理している)
 - 情報処理学会でのACTに関する発表の様子
 
参考文献
書式はWikipedia:出典を明記するによる。
- 木村清ほか 『情報処理学会研究報告 94-CE-33』 情報処理学会、1994年。(詳細はノートを参照)
 - 木村清ほか 『尚絅短期大学研究紀要』 尚絅女学院短期大学、pp.129-141、2002年。(詳細はノートを参照) 日本工業標準調査会 『JIS X 4063 仮名漢字変換システムのための英字キー入力から仮名への変換方式 』 財団法人 日本規格協会、2000年。