悪性腫瘍
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悪性腫瘍(あくせいしゅよう、Malignant Tumor, Cancer)は、生体の自律制御を外れて自己増殖する細胞集団である。周囲の組織に浸潤して転移する腫瘍を指す。がん(ガンまたは癌)や「悪性新生物」とも称し、死亡につながることも多い。国立がん研究センターによると、2007年以降に登録された院内がんデータでは、2018年の時点で10年生存率は59.4%であり、部位や病期(「ステージ」)により差が大きい[1]。
目次
概要
ヒトの身体の細胞は、正常な状態では、細胞数をほぼ一定に保つために分裂・増殖を制御する機構が働いている。腫瘍は、生体細胞の遺伝子に発生した異常に起因して、正常な制御を外れて自律的に増殖を開始したものを指す。腫瘍と正常組織の区画が不明瞭で、異物が組織や細胞内に蓄積する浸潤現象 (Infiltration) が発現し、転移現象が認められる状態を「悪性腫瘍」[2][3]と称する。
治療せずに放置すると全身に転移し、最悪の場合は死に至る[2][3]。
語義
「悪性腫瘍(malignant tumor)」は、一般に「がん(英:cancer、独:Krebs)」として知られているが、病理学的には「癌」というと悪性腫瘍のなかでも特に「癌腫(上皮腫、carcinoma)」のことを指す。
「癌」を表す「cancer」は、かに座 (cancer) と同じ単語であり、乳癌の腫瘍が蟹の脚のような広がりを見せたところから、医学の父と呼ばれるヒポクラテスが「蟹」の意味として古代ギリシャ語で「καρκίνος (carcinos)」と名づけ、これをアウルス・コルネリウス・ケルススが「cancer」とラテン語訳したものである。
漢字の「癌」は病垂と「岩」の異体字である「嵒」との会意形声文字で、本来は「乳がん」の意味である。触診すると岩のようにこりこりしているからで、江戸期には「岩」と書かれた文書もある。有吉佐和子の小説「華岡青洲の妻」には、乳がんを表す「岩(がん)」ということばが頻出する。
「癌」は当初「腺」「膵」と同様幕末の国字と思われていたが、中野操によって宋代より『衛済宝書』(1170年)、『仁斎直指方』(1264年)など多くの使用例があることが確認され、否定された。
「悪性腫瘍」は「悪性新生物」とも呼ばれ、malignant neoplasmの訳語として作られた言葉で、malignant「悪性の」、neo「新しく」、plasm「形成されたもの」を意味する。
なお、「癌」という言葉は、上記の用法をもとに比喩的に用いられることがあり、社会の機構や組織について「○○は△△のがんだ」ということがある[4]。
表記・呼称
腫瘍は良性腫瘍と悪性腫瘍とに分類され、後者を「癌」と称する。癌は、上皮組織系由来の癌腫 (Carcinoma) と非上皮組織系細胞由来の肉腫 (Sarcoma) に分類される。癌腫の診断名は「臓器名(組織名)+癌」で表記される[5]。ひらがなの「がん」は悪性腫瘍全体を示し、漢字の「癌」は上皮細胞から発生する癌腫と使い分けられることがあるが、区別はされないことも多い[6]。
戦後に定めた当用漢字は「癌」を含まず「がん」が広く一般に用いられ、学問では「癌」を用いたが、「がんは悪性腫瘍の総称、癌は癌腫を意味する」との主張が1990年以前から一部で見られるようになった。日本口腔外科学会は「がんは悪性腫瘍の総称、癌は癌腫を意味する」と定義しているが、内科医の藤田浄秀は、当用漢字による漢字制限と必然的に生じた仮名書きの強制の歴史的観点から「不適切だ」と主張している[5]。
国際疾病分類
国際疾病分類の日本語訳では「Cancer」の訳語として、「がん」(「癌」)を当てており、悪性腫瘍一般を意味する[7]。
「がん」を意味する「Cancer」は、かに座を意味する「Cancer」と同じ単語であり、乳癌の腫瘍が蟹の脚のような広がりを見せた[8] ところから、「医学の父」と呼ばれるヒポクラテスが「蟹」の意味として「καρκίνος」(Carcinos)と名づけ、これをアウルス・コルネリウス・ケルススが「Cancer」とラテン語に翻訳した。
広義の「Cancer」は「悪性新生物」(Malignant Neoplasm) の総称であり、ひらがなで「がん」と表記する[9]。ひらがなの「がん」は、「癌腫」や非上皮由来の「肉腫」(sarcoma)、白血病のような血液悪性腫瘍も含めた広義的な意味で悪性腫瘍を表す言葉として使われており、「国立がん研究センター」、各都道府県における「〇〇県がんセンター」と表記している[10]。
広義の「Cancer」は、狭義の「Cancer」にあたる「Carcinoma」(癌腫)、「Sarcoma」(肉腫)、その他(白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫、悪性中皮腫)に分けられる[9]。
漢字の「癌」は、「岩」の異体字である「嵒」と、病垂との会意形声文字であり、本来は「乳がん」の意味である。触診すると岩のようにこりこりしているからで、江戸時代のころには「岩」と書かれた文書も残っている。
社会の機構や組織について「○○は△△のがんだ」「△△のガン細胞」と比喩表現の1つとして使われることがある[4]。
腫瘍
「腫瘍」は国際疾病分類の「Tumor」の日本語訳であり、「生体内において、その個体自身に由来する細胞でありながら、その個体全体としての調和を破り、時に他から何らの制御を受けることなく、又自らの規律に従い、過剰の発育をとげる組織をいう」と定義されている[7]。
新生物 (Neoplasm) も腫瘍と同義に用いられており、良性と悪性があり、悪性新生物は癌、癌腫及び肉腫を意味する[7]。
医学的分類
癌腫 | 肉腫 | |
---|---|---|
由来 | 上皮性 | 非上皮性 |
発育速度 | 速い | より速い |
年齢 | 高齢者 | 若年者 |
転移行性 | リンパ行性 | 血行性 |
構造 | 胞巣構造 | 混合 |
悪性腫瘍の用語は病理学において以下のように分類される。
- 癌腫 (Carcinoma):上皮組織由来の悪性腫瘍、皮膚の上という意味において、皮膚表面からつながる内臓の内側つまり胃の中、腸の中に発生するものが上皮由来となる。カルシノーマ。
- 肉腫 (Sarcoma):非上皮組織由来の悪性腫瘍、皮膚の上でない部位、平滑筋の中や後腹膜に発生するものを非上皮由来となる。サルコーマ。
- その他:白血病 以上を合わせた悪性腫瘍全体を指し示すのがひらがなの「がん」(Cancer) となる。
主な作用
悪性腫瘍は、
- 無制限に栄養を使って増殖するため、生体は急速に消耗する。
- 全身に転移することにより、多数の臓器を機能不全に陥れる。
これらに伴い、癌性疼痛を惹き起こすことも多い。
がんの代謝
通常の細胞では、酸素が十分に供給されている時は、ATP合成のエネルギー効率が高いが合成速度の遅いミトコンドリアでの酸化的リン酸化でエネルギー生産を行う。酸素が十分に供給されない時は、エネルギー効率が悪いが速度の速い解糖系によって、エネルギーを得ている。がん細胞は酸素が十分に供給されている環境下でもエネルギー効率の悪い解糖系で活動する。これはワールブルク効果(「ウォーバーグ効果」とも)と呼ばれている。この現象は以前から知られていたが、代謝物を一斉に測定・解析を行なうメタボロミクスによって、非がん組織と比較してがん組織で解糖系の代謝中間体のプロファイルが明らかになり、解糖系の活性化が明確に示された[11]。なお、通常の細胞の代謝に関しては解糖系によるATP合成速度は電子伝達系によるATP合成速度の約100倍の速度を有している[12]。
癌組織の多くがブドウ糖代謝に活発(言い換えると、「癌細胞はブドウ糖をエサにして増殖する」)な性質を利用したポジトロン断層法(PET)が、がん診断に利用されている。
疫学

世界保健機関 (WHO) によれば、2005年の世界の5800万人の死亡のうち、悪性腫瘍による死亡は13%(760万人)を占める。死亡原因となった悪性腫瘍のうち、最多のものは肺がんが130万人で、胃がんは100万人、肝がん、大腸がん、乳がんが続く。悪性腫瘍による死亡は増加し続け、2030年には1140万人が悪性腫瘍で死亡すると予測されている。
日本の原因疾患別死亡者数の割合と順位では1951年から1980年まで30年間1位の脳血管疾患に代わり、1981年から2015年まで35年連続で1位で[14][15][16][17][18][19][20]、2015年度は死亡者数129万0428人のうち、がんによる死者数は37万0131人であり[19][20]、死亡者総数に対する割合は28.7%である。
死亡数 (2017年) | 罹患数 (2014年) | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
男 | 女 | 男女 | 男 | 女 | 男女 | |
1位 | 肺 | 大腸 | 肺 | 胃 | 乳房 | 大腸 |
2位 | 胃 | 肺 | 大腸 | 肺 | 大腸 | 胃 |
3位 | 大腸 | 膵臓 | 胃 | 大腸 | 胃 | 肺 |
4位 | 肝臓 | 胃 | 膵臓 | 前立腺 | 肺 | 乳房 |
5位 | 膵臓 | 乳房 | 肝臓 | 肝臓 | 子宮 | 前立腺 |
分類
「がん」は単一の細胞を起源とし、発生母地となった細胞の種類(組織学的分類)と細胞の身体的部位(解剖学的分類)とで分類できる。
組織学的分類
病期分類は、腫瘍学、癌に詳述がある。
成人のがん
成人の「がん」は通常は上皮組織に形成され、遺伝的あるいは内因的特性を持つ人々が外的要因に曝された影響による長期間にわたる生物学的な過程を経て生じる、と大方の場合は考えられている。肉腫は上皮由来ではないが、悪性腫瘍として癌と同様に検査・診断・加療される。
次に例を示す[注釈 1]:
- 血液(および骨髄) - 造血細胞悪性腫瘍
- 脳腫瘍
- 乳がん
- 子宮体がん - 子宮
- 子宮頚がん
- 卵巣がん
- 食道癌
- 胃癌
- 虫垂癌
- 大腸癌 - 大腸、直腸、肛門およびその付随組織
- 肝癌
- 胆嚢癌
- 胆管癌
- 膵臓がん(膵がん)
- 副腎癌
- 消化管間質腫瘍(GIST)
- 中皮腫 - 胸膜、腹膜、心膜
- 頭頚部癌
- 腎臓がん
- 肺癌
- 骨肉腫 - 骨
- ユーイング肉腫
- 軟骨肉腫
- 前立腺癌
- 精巣腫瘍(睾丸がん)
- 腎細胞癌 - 腎臓
- 膀胱癌
- 横紋筋肉腫 - 筋肉(骨格筋)
- 皮膚癌(「ほくろ」と形成異常母斑を含む)
- 肛門癌
発生機序
悪性腫瘍が生じるしくみについては様々な説明がある。比較的多い説明というのは、遺伝子におきた何らかの変化・病変が関わって生じている、とする説明である。では、その遺伝子の何らかの病変がどのように生じているのか、ということに関しては、実に様々な要素・条件が指摘されていて、研究者ごとにその指摘の内容や列挙のしかたは異なる。数百年前に比べれば、かなり多くのことが判ってきてはいるものの、現在でも悪性腫瘍発生のしくみの全てがすっきりと解明されているとも言えず、研究者を越えて同一の考え方が共有されているとも言い難い。
発生機序について、どの説明でもほぼ共通して言及されている内容というのは、何らかの遺伝子の変化と細胞の増殖の関係である。その説明というのは例えば以下のようなものである。
- 身体を構成している数十兆の細胞は、分裂・増殖と、「プログラムされた細胞死」(アポトーシス)を繰り返している。正常な状態では、細胞の成長と分裂は、身体が新しい細胞を必要とするときのみ引き起こされるよう制御されている。すなわち細胞が老化・欠損して死滅する時に新しい細胞が生じて置き換わる。ところが特定の遺伝子(p53など、通常複数の遺伝子)に変異(=書き変わること)が生じると、このプロセスの秩序を乱してしまうようになる。すなわち、身体が必要としていない場合でも細胞分裂を起こして増殖し、逆に死滅すべき細胞が死滅しなくなる。
ただし、数十兆個の細胞で構成されている人体全体では、実は、毎日数千個単位で遺伝子の病変は生じており、それでも健康な人の場合は一般に、体内に生じた遺伝子が病変した細胞を、なんらかのしくみによって統制することに成功しており(免疫やいわゆる自然治癒力)、遺伝子が病変した悪性のがん細胞が 体内にある程度の個数存在するからといって、必ずしも人体レベルで悪性腫瘍になるというわけでもない、ということも近年では明らかにされている。
一方で「全ての遺伝子の突然変異ががんに関係しているわけではなく、特定の遺伝子(下述)の変異だけが関与している」と述べたり主張したりする研究者もいるが、他方で、「発癌には様々なプロセスが関わっている」「がんに関与する因子ならびにがんに至るプロセスは単一ではなく、複数の遺伝子変異なども含めて様々な機構の不具合が関与する」とする研究者もいるのである(多段階発癌説)。臨床の現場で「悪性腫瘍」と判断される段階に至るまでには、個々の細胞の遺伝子の変化以外にも、人体のマクロレベルで働いている機構(例えば、がん化した細胞を制御する免疫機構、広く自然治癒力とも呼ばれているしくみなど)が不具合に陥ってしまうことも含めて、さまざまな内的・外的な要因が複雑に作用している、とも指摘されているのである。
近年では大規模統計、疫学的な調査によって、人々の生活環境に存在する化学物質などの外的な要因や、その人の生活習慣など、様々な条件・要因が悪性腫瘍発生の要因として働いている、と分析されるようになっている(後述)。また、今日では、最近研究が進んだエピジェネティック研究も反映して、遺伝子のエピジェネティック変化が要因となることもある、と指摘されることもある。
このように悪性腫瘍の発生機序については、諸見解があるものの、いずれにせよ、そうして生じた過剰な細胞は組織の塊を形成し、臨床の場でも認識できるようになり、医師等によって「腫瘍」あるいは「新生物」と呼ばれるようになる。そして、腫瘍は「良性(非がん性)」と「悪性(がん性)」に分類されることになる。良性腫瘍とは、まれに命を脅かすことがあるが(特に脳に出来た場合)、身体の他の部分に浸潤や転移はせず、肥大化も見られないものをそう呼んでいる。一方、悪性腫瘍は浸潤・転移し、生命を脅かすものをそう呼んでいるのである。
がん発生に関与する遺伝子群
現在、がん抑制遺伝子といわれる遺伝子群の変異による機能不全がもっともがん発生に関与しているといわれている。たとえば、p53がん抑制遺伝子は、ヒトの腫瘍に異常が最も多くみられる種類の遺伝子である。p53はLi-Fraumeni症候群 (Li-Fraumeni syndrome) の原因遺伝子として知られており、また、がんの多くの部分を占める自発性がんと、割合としては小さい遺伝性がんの両方に異常が見つかる点でがん研究における重要性が高い。p53遺伝子に変異が起こると、適切にアポトーシス(細胞死)や細胞分裂停止(G1/S細胞周期チェックポイント)を起こす機能が阻害され、細胞は異常な増殖が可能となり、腫瘍細胞となりえる。p53遺伝子破壊マウスは正常に生まれてくるにもかかわらず、成長にともなって高頻度にがんを発生する。p53の異常はほかの遺伝子上の変異も誘導すると考えられる。p53のほかにも多くのがん抑制遺伝子が見つかっている。
一方、変異によってその遺伝子産物が活性化し、細胞の異常な増殖が可能となって、腫瘍細胞の生成につながるような遺伝子も見つかっており、これらをがん遺伝子と称する。これは、がん抑制遺伝子産物が不活性化して細胞ががん化するのとは対照的である。がん研究はがん遺伝子の研究からがん抑制遺伝子の研究に重心が移ってきた歴史があり、現在においてはがん抑制遺伝子の変異が主要な研究対象となっている。
分化度
ヒト(の身体)を構成する60兆とも言われる細胞は、1個の受精卵から発生を開始し、当初は形態的機能的な違いが見られなかった細胞は各種幹細胞を経て組織固有の形態および機能をもった細胞へと変化してゆく。この形態的機能的な細胞の変化を分化という。細胞の発生学的特徴の一つとして、未分化細胞ほど細胞周期が短く盛んに分裂増殖を繰り返す傾向がある。通常、分化の方向は一方向であり、正常組織では分化の方向に逆行する細胞の幼若化(=脱分化)は、損傷した組織の再生などの場合を除き、発生しない。
しかし、がん細胞は特徴の一つに幼若化/脱分化するという性質があるため、その結果分化度の高い(=高分化な)がん細胞や、ときには非がん組織から、低分化あるいは未分化ながん細胞が生じる。細胞検体の検査を行ったとき、細胞分化度が高いものほど臓器の構造・機能的性質を残しており、比較的悪性度が低いと言える(ただしインシュリノーマ等の内分泌腺癌など、例外はある)。また、通常は分化度の低いものほど転移後の増殖も早く、治療予後も不良である。
化学療法は、特定の細胞周期に依存して作用するものが多いため、細胞周期が亢進している分化度が低いがんほど化学療法に対して感受性が高いという傾向がある。なお、腫瘍細胞への作用原理・特性などは化学療法 (悪性腫瘍)の項に詳しく記した。
発生要因
「がんの発生機序」の項で述べたように、要因については様々な説がある。悪性腫瘍(がん)は、細胞のDNAの特定部位に幾重もの変異が積み重なって発生する、と説明されることは多い。突然変異が生じるメカニズムは多様であり、全てが知られているわけではない。遺伝子の変異は、通常の細胞分裂に伴ってもしばしば生じていることも知られており、また偶発的に癌遺伝子の変異が起こることもありうる。それ以外に、発癌の確率(すなわち遺伝子の変異の確率)を高めるウイルス、化学物質、放射線(環境放射線、人工放射線、X線撮影やCTスキャン等による医療被曝[23])… 等々等々、多様な環境因子、様々な要因が明らかになってきている。
しかし、DNA修復機構や細胞免疫など生体が持つ修復能力も同時に関与するので、水疱瘡が、水痘・帯状疱疹ウイルス (Varicella-zoster virus) の感染で起こるといったような1対1の因果関係は、癌においては示しにくいことが多い。
なお、発癌機構については発癌性の項に詳しく記した。
生活習慣(肉食、塩分、喫煙、飲酒など)
喫煙と数多くの部位のがんとの間に強い相関があることが、数十年にわたる調査での一貫した結果によって明らかになっている。数百の疫学調査により、たばことがんとの関係が確認されている。アメリカ合衆国における肺がん死の比率とたばこ消費量の増加パターンは鏡写しのようであり、喫煙が増加すると肺がん死比率も劇的に増加し、近年喫煙傾向が減少に転じると、男性の肺がん死比率も減少している。日本政府が日本たばこ産業の株の半数以上を保有しているため、喫煙規制や禁煙に関する動きが進みにくかったという指摘が渡邊昌によってなされており[24]、がんの死亡率の1位が肺がんとなっている。
米国国立がん研究所の公開資料によると、「食事の違いはがんの危険を決定づける役割を持っている。タバコ、紫外線、そしてアルコールは顕著な関係が識別できるのに対して、食事の種類とがんに罹る危険性との関係を明らかにすることは難しい。脂肪とカロリーの摂取を制限することは、ある種のがんの危険率を減少させる可能性があると明らかとなっている。(脂肪に富んだ)大量の肉と大量のカロリーを摂取する人々は、特に大腸がんにおいて、がんの危険が増大することが図より見て取れる。」と指摘している[25]。
いわゆる「食生活の欧米化[26]」は、乳房や前立腺や大腸のがんとの関連が強いと考えられ[27]、実際に部位別の死亡率は増えている[28]。つまり、近年になって日本人に大腸癌や乳癌が増えてきた原因のひとつには、食生活の欧米化による動物性脂肪の摂取の増加と食物繊維の摂取不足がある、と指摘されているのである。大腸での便の停滞時間が長くなって発癌物質が大腸粘膜と長時間接するため大腸癌が多くなったと考えられているのである[29]。
ストレス:ストレスを与えると、血流の低下、免疫力の低下につながり、がんになる確率が上がる。
低体温症:がん細胞は低い温度を好むため、平常時体温が36.0℃を下回る人はがんになる確率が上がる。また、体温低下で免疫力が低下する[30]。
WHOと国際がん研究機関 (IARC) による、「生活習慣とがんの関連」についての報告がある[31]。
関連の強さ | リスクを下げるもの(部位) | リスクを上げるもの(部位) |
---|---|---|
確実 | 身体活動(結腸) | たばこ(口腔、咽頭、喉頭、食道、胃、肺、膵臓、肝臓、腎臓、尿路、膀胱、子宮頸部、骨髄性白血病) 他人のたばこの煙(肺) 過体重と肥満(食道<腺がん> 結腸、直腸、乳房<閉経後>、子宮体部、腎臓) 飲酒(口腔、咽頭、喉頭、食道、肝臓、乳房)、 アフラトキシン(肝臓)、 中国式塩蔵魚(鼻咽頭) |
可能性大 | 野菜・果物(口腔、食道、胃、結腸、直腸) 身体活動(乳房) |
貯蔵肉(結腸、直腸) 塩蔵品および食塩(胃) 熱い飲食物(口腔、咽頭、食道) |
可能性あり データ不十分 | 食物繊維、大豆、魚、ω-3脂肪酸、カロテノイド、ビタミンB2、ビタミンB6、葉酸、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、カルシウム、亜鉛、セレン、非栄養性植物機能成分(例:アリウム化合物、フラボノイド、イソフラボン、リグナン) | 動物性脂肪 複素環式アミン 多環芳香族炭化水素 ニトロソ化合物 |
病因微生物
一部の悪性腫瘍(がん)については、ウイルスや細菌による感染が、その発生の重要な原因であることが判明している。現在、因果関係が疑われているものまで含めると以下の通り。
- 子宮頸部扁平上皮癌 - ヒトパピローマウイルス16型、18型(HPV-16, 18)
- バーキットリンパ腫 - EBウイルス(EBV)
- 成人T細胞白血病 - ヒトTリンパ球好性ウイルス
- 肝細胞癌 - B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)
- カポジ肉腫 - ヒトヘルペスウイルス8型(HHV-8)
- 胃癌および胃MALTリンパ腫 - ヘリコバクター・ピロリ
なお、癌に関与するウイルスは腫瘍ウイルスの項に詳しく記した。
これらの病原微生物によってがんが発生する機構はさまざまである。ヒトパピローマウイルスやEBウイルス、ヒトTリンパ球好性ウイルスなどの場合、ウイルスの持つウイルスがん遺伝子の働きによって、細胞の増殖が亢進したり、p53遺伝子やRB遺伝子の機能が抑制されることで細胞ががん化に向かう。肝炎ウイルスやヘリコバクター・ピロリでは、これらの微生物感染によって肝炎や胃炎などの炎症が頻発した結果、がんの発生リスクが増大すると考えられている。またレトロウイルスの遺伝子が正常な宿主細胞の遺伝子に組み込まれる過程で、宿主の持つがん抑制遺伝子が欠損することがあることも知られている。ただしこれらの病原微生物による感染も多段階発癌の1ステップであり、それ単独のみでは癌が発生するには至らないと考えられている。
遺伝的原因
大部分のがんは偶発的であり、特定遺伝子の遺伝的な欠損や変異によるものではない。しかし遺伝的要素を持ちあわせる、いくつかのがん症候群が存在する。例えば、
- 女性のBRCA1遺伝子がもたらす、乳がんあるいは子宮がん
- 多発性内分泌腺腫(multiple endocrine neoplasia) - 遺伝子MEN types 1, 2a, 2bによる種々の内分泌腺の腫瘍
- p53遺伝子の変異により発症するLi-Fraumeni症候群(Li-Fraumeni syndrome)、(骨肉腫、乳がん、軟組織肉腫、脳腫瘍など種々の腫瘍を起す)
- (脳腫瘍や大腸ポリポーシスを起す)Turcot症候群(Turcot syndrome)
- 若年期に大腸がんを発症する、APC遺伝子の変異が遺伝した家族性大腸腺腫症(Familial adenomatous polyposis)
- 若年期に大腸がんを発症する、hMLH1, hMSH2, hMSH6などDNA修復遺伝子の変異が遺伝した遺伝性非ポリポーシス大腸癌(en:Hereditary nonpolyposis colorectal cancer)
- 幼少期に網膜内にがんを発生する、Rb遺伝子の変異が遺伝した網膜芽細胞腫(Retinoblastoma)
- 若年期に高頻度に多発性嚢胞腎を発症し、後に腎がんを発生する、VHL遺伝子の変異が遺伝したフォン・ヒッペル・リンドウ病(von hippel Lindau disease)
- 原因となる遺伝子は不詳であるが、家族内集積のみられる非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)や原発性胆汁性肝硬変(PBC)による肝細胞癌(en:Hepatocellular carcinoma)
遺伝的素因と環境因子の双方により発癌リスクが高くなるものとして、アルコール脱水素酵素の低活性とアルコール多飲がある。これらが揃うと頭頸部癌(咽頭癌・食道癌など)の罹患率が上昇する。日本を含むアジアではアルコール脱水素酵素(ADH1B)の活性が低い人が多い。
予防
子宮頸癌は発癌リスクを軽減できるHPVワクチンが日本でも認可された。胃癌はヘリコバクター・ピロリを除菌することにより、発癌リスクを軽減できることが報告されている。B型肝炎はエンテカビルによりHBVウイルスを減少させることで、C型肝炎はインターフェロン療法によりHCVを駆除することにより、発癌リスクを軽減できることがわかっている。
がん予防10か条(世界がん研究基金)
2007年11月1日、世界がん研究基金とアメリカがん研究協会によって7000以上の研究を根拠に「食べもの、栄養、運動とがん予防[33]」が報告されている。これは1997年に公表され、日本では「がん予防15か条」などと呼ばれていた4500以上の研究を元にした報告の大きな更新である。
- 肥満 ゴール:BMIは21-23の範囲に。推薦:標準体重の維持。
- 運動 推薦:毎日少なくとも30分の運動。
- 体重を増やす飲食物 推薦:高エネルギーの食べものや砂糖入り飲料やフルーツジュース、ファーストフードの摂取を制限する。飲料として水や茶や無糖コーヒーが推奨される。
- 植物性食品 ゴール:毎日少なくとも600gの野菜や果物と、少なくとも25グラムの食物繊維を摂取するための精白されていない穀物である全粒穀物と豆を食べる。推奨:毎日400g以上の野菜や果物と、全粒穀物と豆を食べる。精白された穀物などを制限する。
- 動物性食品 赤肉(牛・豚・羊)を制限し、加工肉(ハム、ベーコン、サラミ、燻製肉、熟成肉、塩蔵肉)は避ける。赤肉より、鶏肉や魚が推奨される。ゴール:赤肉は週300g以下に。推奨:赤肉は週500g以下に。乳製品は議論があるため推奨されていない。
- アルコール 男性は1日2杯、女性は1日1杯まで。
- 保存、調理 ゴール:塩分摂取量を1日に5g以下に。推奨:塩辛い食べものを避ける。塩分摂取量を1日に6g以下に。カビのある穀物や豆を避ける。
- サプリメント ゴール:サプリメントなしで栄養が満たせる。推奨:がん予防のためにサプリメントにたよらない。
- 母乳哺育 6か月、母乳哺育をする。これは母親を主に乳がんから、子供を肥満や病気から守る。
- がん治療後 がん治療を行ったなら、栄養、体重、運動について専門家の指導を受ける。
タバコの喫煙は肺、口腔、膀胱がんの主因であり、タバコの煙は最も明確に多くの部位のがんの原因であると強調。また、タバコとアルコールは相乗作用で発癌物質となる。
がん対策の目標(健康日本21-日本厚生労働省)
2000年、厚生労働省の健康日本21[34]によってがん対策の目標が提唱されている。
- 喫煙が及ぼす健康影響についての知識の普及、分煙、節煙。
- 食塩摂取量を1日10g未満に減らす。
- 野菜の平均摂取量を1日350g以上に増やす。
- 果物類を摂取している人の割合を増やす。
- 食事中の脂肪の比率を25%以下にする。
- 純アルコールで1日に約60g飲酒する人の割合を減少する。 「節度ある適度な飲酒」は、約20gという知識の普及。
- がん検診。胃がん、乳がん、大腸がんの検診受診者の5割以上の増加。
がんを防ぐための12か条(日本国立がんセンター)
1978年、日本の国立がんセンター(現・独立行政法人国立がん研究センター)は「がんを防ぐための12ヵ条[35]」を提唱している。
- バランスのとれた栄養をとる(好き嫌いや偏食をつつしむ)
- 毎日、変化のある食生活を(同じ食品ばかり食べない)
- 食べすぎをさけ、脂肪はひかえめに
- お酒はほどほどに(強い酒や飲酒中のタバコは極力控える)
- たばこは吸わないように(受動喫煙は危険)
- 食べものから適量のビタミンと食物繊維を摂る(自然の食品の中からしっかりとる)
- 塩辛いものは少なめに、あまり熱いものはさましてから
- 焦げた部分はさける
- かびの生えたものに注意(輸入ピーナッツやとうもろこしに要注意)
- 日光に当たりすぎない
- 適度に運動をする(ストレスに注意)
- 体を清潔に
がん検診
がん検診 を参照
その他
アセチルサリチル酸(アスピリン)の少量長期服用で発癌のリスクを減少させることができるとの報告もある[36]。
分類
「がん」は単一の細胞を起源とする。したがって、がんは発生母地となった細胞の種類(組織学的分類)と細胞の身体的部位(解剖学的分類)とで分類できる。
組織学的分類
なお、病期分類に関しては、腫瘍学の項か、各癌の記事に詳しく記した。
成人のがん
成人の「がん」は普通、上皮組織に形成され、遺伝的あるいは内因的特性を持つ人々が、外的要因に曝された影響による長期間にわたる生物学的プロセスの結果として生じるとおおかたの場合は考えられている。肉腫は上皮由来ではないが、悪性腫瘍として癌と同様に検査・診断・加療される。
次に例を示す:(「がん」・「癌」については、明確に癌腫の場合は「〜癌」、疾患名の場合は「〜がん」と表記している)
- 血液(および骨髄) - 造血細胞悪性腫瘍
- 脳腫瘍
- 乳がん
- 子宮体がん - 子宮
- 子宮頚がん
- 卵巣がん
- 食道癌
- 胃癌
- 虫垂癌
- 大腸癌 - 大腸、直腸、肛門およびその付随組織
- 肝癌
- 肝細胞癌 - 肝臓
- 胆嚢癌
- 胆管癌
- 膵臓がん(膵がん)[37]
- 副腎癌
- 消化管間質腫瘍
- 中皮腫 - 胸膜、腹膜、心膜など
- 頭頚部癌
- 腎臓がん
- 肺癌
- 骨肉腫 - 骨など
- 前立腺癌
- 精巣腫瘍(睾丸がん)
- 腎細胞癌 - 腎臓
- 膀胱癌
- 横紋筋肉腫 - 筋肉(骨格筋)
- 皮膚癌(「ほくろ」と形成異常母斑を含む)
- 肛門癌
幼児期のがん
「がん」は幼い子供にも発生し、場合によっては新生児にも発生する。異常な遺伝形質プロセスのために細胞の複製幼若化にたいして抑制が利かないので、制御されない増殖が早期より亢進し、がん進行も速い。
また、肉腫が多いことが特徴として挙げられる。そのため、外科治療による治癒が難しいとされている。だが、抗がん剤が効きやすいという特徴も持つといわれている。そのため、現在では7割が治療に成功するとされている。
幼児期のがんの発生ピーク年齢は生後一年以内にある。神経芽細胞腫は最も普通に見られる新生児の悪性腫瘍であり、白血病(leukemia)と中枢神経がんがその次に続く。女子新生児と男子新生児とは概して同じ発生率である。しかし、白人の新生児は黒人の新生児に比べてほとんどの種類のがんにおいて大幅に発生率が高い。
新生児の神経芽細胞腫は生存率が非常に良く、ウィルムス腫瘍、網膜芽細胞腫も非常に良いが、他のものはそれほど良くない。
幼児期がんを次に示す:(概ね発生頻度順、「がん」・「癌」は明確に癌腫の場合は「〜癌」、疾患名の場合は「〜がん」とした)
診断
「がん」の診断には2つの状況がある。ひとつは臨床診断(特に病理検査)ともうひとつは集団検診(がん検診; 術後検診を含む)である。がんを根治する上で重要な点は「早期発見」と「全摘出手術の可能性検証」が挙げられる。言い換えると、集団検診と臨床診断とが効果的に機能して初めて、がん治療が成功に導かれる。また全摘出手術が困難な状況において、がんの種類によって異なる有効な治療法を選択する目的でも、臨床診断は重要である。一方、全摘出手術が成功した場合においても、再発がん、二次性がんの発生の懸念があるため、その局面においても術後定期検診は重要である。
細胞診断・生検組織診断
「がん」の組織は顕微鏡下での観察、すなわち検鏡によって、形態から鑑別される。判定像では多くの分裂中の細胞が観察され、細胞核のサイズや形状はばらばらであり、(分化した)細胞の特徴が消失している。これらは細胞診でも生検組織診でも確認できる特徴である。組織診では更に、正常な組織構造が失われていることや、周囲の組織(が一緒に採取されていれば、そこ)と腫瘍との境界が不明瞭であることが観察される。
生検組織診は、過形成、異形成、上皮内癌などと浸潤癌との鑑別に有用である。
進行度
「がん」の進行度を表すものとして「TNM分類」や「ステージ分類」がある。
- TNM分類
- ステージ分類
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この節を書こうとした人は途中で寝てしまいました。後は適当に頑張って下さい。 |
治療
「がん」治療の代表的なものを次に挙げる
なお、がんの治療の詳細については、腫瘍学の項に詳しく記した。
- ※日本におけるがんの在宅医療が適切なので、英語版の翻訳は割愛した。
がん治療後の生活の質の向上
がん治療後の最大の関心事は再発の有無であり、又は、がんが残っている場合にはその推移である。このため、治療後も主治医による定期的な検診を受けて状況を正しく把握しつつ生活を再建していくことが肝要である。
がん治療は手術による切除などを伴うことが多く、治療後の生活は、例えば治療によってがんそのものは完治した場合であっても、大きく影響を受けることが多い。がんができた場所によって治療により影響を受ける機能は千差万別であり、対処法もそれぞれに異なる。一般に、切除などによって失われる体の機能をできる限り小さくし、失われた機能を補う手段を用いて、治療後の生活の質(QOL, Quality Of Life)を従来よりも向上させる努力が進められている。
失われた機能を補う手段として以下のものがある。術後は局所的な失われた機能そのものだけでなく、関連して周囲の障害や不自由さが生じることも多いので、それぞれにおいて必要なリハビリを行うことも重要である。
ストーマ
直腸がんで肛門に近いところにがんができた場合や肛門にがんができた場合、人工肛門(消化器ストーマ)が作られる。また、膀胱がんで膀胱と尿道をとる必要がある場合、人工膀胱を用い、尿の排泄口である尿路出口(尿路ストーマ)が作られる。手術後、ストーマによる排泄をスムーズに行えるようにするケア(ストーマケア[38])の方法が十分に習得できてから退院する。ストーマがあっても入浴はでき、体力が回復すれば仕事や学業に復帰することも可能である。
気管孔
気管孔は鼻または口から肺へ空気を導入して呼吸することができなくなる場合に、気管を外部へつなげる穴を開けて呼吸を確保するものである。首のつけねの前の位置に丸い穴をあける。気管孔は治療の過程で呼吸を確保するために一時的に設ける場合もあり、この場合は通常の呼吸が可能になると共に閉じられる。 他方、咽頭、喉頭、またはその近くにがんがあり、治療により咽頭を全部切除しなければならない場合、そのままでは食事も呼吸もできなくなるので、口に通じる食道を気管と完全に分けて形成し、気管の出口を気管孔につなげる。この場合を永久気管孔という[39]。
永久気管孔を設けた場合、首に穴があいたままになる。術後の日常生活が受ける主な影響として次のものがある。
- 入浴時などに気管孔に水が入らないように注意する。水泳、潜水は、できない。
- 声帯がないので声がでなくなる。筆談やジェスチャーで会話する他、電気発声法(人工喉頭)、食道発声法などを習得することにより、声を取り戻すことも可能である。
- 食事は、においをかぐことができなくなるなどの影響を受けるが、何でも食べられる。
再建術
エピテーゼ
体の表面につける人工物をエピテーゼという。手術によって体の外見に関わる変化を生じてしまった場合、機能的な不自由さのみならず、精神的なダメージを被ってしまう場合もあるが、エピテーゼを用いることで改善を図れる場合がある。日本では2006年9月現在、エピテーゼは医療行為として認められておらず、保険外となる。
人工乳房
乳がんの治療では、抗癌剤、放射線治療の併用により乳房温存できる場合が増えている。治療法とそれによる様々な影響、治療後のリスクなどについて、十分に医師と患者の双方が納得して治療を行うことが重要である。切除手術を行った場合、人工乳房が各種開発されているので用いることができる。
顔面エピテーゼ
頭頸部がんでは治療によって顔面の一部の機能が損なわれたり、一部が失われたりする場合がある。手術に放射線治療、化学療法を併用することにより、失われる機能を最小限にする努力が進められており、切除範囲は縮小する傾向である。また、再建術も多く行われている。術後に予想される変化とリスクを医師と患者が話し合い、双方が納得して治療を進めることが重要である。喪失した顔面の各部に応じてエピテーゼを制作できる。医療用の接着剤またはインプラントにより装着する。近年は極めて自然な仕上がりのエピテーゼを用いることが可能になってきている。詳細は顔面エピテーゼの項目参照。
- 耳のエピテーゼ
- 耳下腺がんなどの治療では、がんの進行の度合いによって治療により聴力をはじめどの機能までを残せるか、十分な検討が必用である。耳の切除が必要となった場合、外耳の一部が残せれば耳エピテーゼを用いても強度を保て、眼鏡の使用にも耐える。
- 鼻のエピテーゼ
- 鼻は呼吸によって湿気にさらされる部分であり、外見のみでなく機能的部分も要求され、開発が進められている。
- 目およびその周囲のエピテーゼ
- 上顎がんなどが深く進行して目を含めて切除する必要がある時、残った眼窩の上に用いるエピテーゼを制作し装着できる。
- 顎義歯
義肢(義手・義足)
骨肉腫が四肢に発生した場合、かつては切断することが必須とされたが、最近では切断せずに腫瘍を切除することも可能になった。切断した場合に用いる義肢の機能も大幅に改善されている。
補遺
がんの治療によって失われた臓器の機能を補う手段が得られない場合もある。このような場合には、生活の仕方で対応するか、又は、医療的に補充する。
胃がんによって胃を全摘出した場合など、胃に代わるものは用意できないため、食道から直接小腸へと食べ物が入るようになる。少しずつ時間をかけ、何回にも分けて食べることにより、対応できる。
甲状腺がんの場合、少しでも甲状腺が残せた場合甲状腺ホルモンは分泌されるが、甲状腺を全摘出した場合には分泌されなくなる。この場合、術後は甲状腺ホルモンを生涯にわたって処方してもらう。
がんの一覧
脚注
- ↑ 「がん患者10年生存59.4% 国立がんセンター集計 08年診断の24万人」『読売新聞』朝刊2021年4月28日(社会面)
- ↑ 2.0 2.1 大西『スタンダード病理学』第3版、pp.139-141
- ↑ 3.0 3.1 Geoffrey M.Cooper『クーパー細胞生物学』pp.593-595
- ↑ 4.0 4.1 広辞苑 第五版
- ↑ 5.0 5.1 藤田浄秀 (2021) 藤田浄秀 がんと癌とで意味が異なるか ―医学用語の混乱を憂える― 横浜医学 72 1 横浜市立大学医学会 2021 47-57 10.15015/00002120
- ↑ () がんの基礎知識 がんという病気について 国立研究開発法人国立がん研究センター [ arch. ] 2022-12-31
- ↑ 7.0 7.1 7.2 () 日本語版「国際疾病分類 腫瘍学 第3.1版」 International classification of diseases for oncology (ICD-O), 3rd ed., 1st revision PDF 厚生労働統計協会
- ↑ ジョン・ブリッグズ『フラクタルな世界』(松下 貢 監訳、深川洋一訳、丸善株式会社、1995年)102頁。引用元は『National Cancer Institute』
- ↑ 9.0 9.1 () がん概論 PDF 国立がん研究センターがん対策情報センター [ arch. ] 2022-05-03
- ↑ () 白血病とは JALSG 特定非営利活動法人 成人白血病治療共同研究機構 [ arch. ] 2017-07-20
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<ref>
タグです。 「cod_H18
」という名前の引用句に対するテキストが指定されていません - ↑ 石田英雄 (2005) 石田英雄 [ クレームに学ぶ 食の安全 ] 海鳥社 2005 978-4874155172 p.29
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参考文献
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- 『がんの補完代替医療ガイドブック-第2版』PDF 編集:厚生労働省がん研究助成金研究「がんの代替療法の科学的検証と臨床応用に関する研究」班、2008年7月。
関連項目
- 腫瘍
- 腫瘍学
- 癌腫/肉腫
- 発癌性
- がん遺伝子/p53遺伝子
- 生活習慣病
- 良性腫瘍/境界悪性腫瘍
- ターミナルケア/緩和医療
- がん保険
- がん診療連携拠点病院/国立がん研究センター
- 関連学会
- がん治療おける臨床試験を実施するグループ
- 日本臨床腫瘍研究グループ (JCOG)/日本がん臨床試験推進機構 (JACCRO)/婦人科悪性腫瘍化学療法研究機構 (JGOG)
- World Community Grid がん治療の為の分散コンピューティング
外部リンク
- 国立がん研究センターHOME
- 日本癌学会
- がん情報サイト Cancer Information Japan (米国国立がん研究所によるPDQの日本語版)
- がんの統計 (国立がん研究センターがん対策情報センター)
- がん情報サービス(国立がん研究センターがん対策情報センター)
- がん情報サービス 携帯版(携帯電話用アドレス)
- 日本対がん協会 - がん
- がんの原因 - イラスト
- p-ヒドロキシベンズアルデヒドで、末期癌の完治を見て喜んで居る皆さんのレビュー - Amazon書籍通販書評
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